『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
開始から1分が過ぎようとした、その時。
右足を軸に、相手のお腹部分に左足の蹴りが決まったように見えた。
「入ったね」
「中段蹴り、技ありで2点っすね」
「虎太くんが取ったんだよね?」
「あぁ」
「すごーいっ!」
思わず拍手。
津田兄弟の試合を観に行ったこともあるけど、ルールがわからず、ただ応援してるだけだった。
物凄い迫力で、試合会場にいるだけで圧倒されてしまって。
正直言うと、怖くて全部観れた試しがない。
いつも途中から目を瞑って、ただ終わるのを待ってただけだった。
「頭の防具、無いんだね」
「メンホーな。あれはオリンピックはしないな」
「……そうなんだ」
前に観た試合では、ヘッドギアみたいなやつを着けてたから。
「おっ、また決まった」
お父さんの声が待合室に響く。
「上段突き、有効1点。……兄貴、頑張れ」
冷静に解説してるのだと思ったら、やっぱり匠刀も心配だよね。
試合中は会場全体が静けさに包まれる。
審判の声と選手の気合の声しか聞こえない。
「あと1分」
絞り出すような声。
瞬きも忘れ、眉間に深いしわが刻まれてる。
きつく握られた拳。
その手に、そっと手を重ねた。
『大丈夫。虎太くんなら』
テレビを観たまま、握り返された手。
『ありがとな』という匠刀の気持ちが伝わって来る。
制限時間残り30秒を切った、その時。
「っぅああああぁぁーいっ!!」
試合開始から何度も叫ばれている気合いだが、一番大きく聞こえた。
しかも、動きが早くて目が追い付かない。
「よしっ」
「決まったの?」
「ん。技自体は、左上段突き、右上段突き、左中段回し蹴りの連続技で、最後の中段回し蹴りが決まって2点追加した」