『オーバーキル』一軍男子に脅かされています


虎太くんの初戦は5対0で、虎太くんの勝ち。
2回戦も危なげなく勝ち上がり、1時間後くらいに3回戦がある。

父親が興奮状態で、匠刀の母親に電話を入れて、もう匠刀より盛り上がってる。

「匠刀、お腹空かない?」
「ちょっと空いたかも。っつーか、喉乾いた」
「だよね」

手に汗握るとはこのことで、試合に出てるわけでもないのに、ずっと心臓がドクドクと脈打ってる。

「お母さん、何か出前取って~」
「お寿司にする?奥平さんも一緒にどうですか?」
「えっ、いいんですか?」
「えぇ勿論」

試合と試合の合間に、鍼治療の残りをしたようで。
すっかりうちらとテレビの前で応援サポーターの奥平さん。
商店街の花屋さんが奥平さんの家で、うちの鍼灸院に飾っている観葉植物や花を管理して貰っている。

「匠刀」
「……ん?」
「ちょっと」

父親は国際電話中。
母親は出前を注文するために受付の中へ。

私は次の試合までの間、匠刀とちょっとだけ二人きりになりたくて。

自室に匠刀を呼んで、ちょっと休憩。

「何、部屋に連れ込んで」
「言い方」
「……気分が悪いのか?」
「悪くはないけど、ちょっと疲れ気味」
「……だよな」

親に心配かけたくなくて、そっと見えないところに移動したかった。

「いいよ、横になって」
「ごめんね」

興奮したせいで、ちょっと息苦しい。

ベッドに横になって目を瞑る。
すると、すぐ横に腰を下ろした匠刀が、ゆっくりと背中を摩ってくれる。

「匠刀、空手やめるの?」
「いつかはな」
「……そうなんだ」
「空手やめても筋トレはするから、心配すんな」
「何の心配よ」

わかってるよ。
私を介抱するための筋力って言いたいんだよね?

私は匠刀のために、何が出来るんだろう。

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