『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
**

「ねぇ、……ねぇってばっ」
「んだよっ」

何がどうしたらこうなるのか、分からないけど。
うちの母親は完全に匠刀を信用しきってる。

私のベッドの横に、客布団を敷いてしまったのだ。

年頃の娘を、彼氏と同じ部屋に寝かせて、大丈夫なの?
そりゃあ、色気もないし。
心臓に難を抱えてるから、匠刀はその気にならないとは思うけど。

それでも、同じ部屋に寝るという時点で、虎太くんの試合観戦よりも心臓が暴れまくってるんだけど。

ドッドッドッドッと物凄い早いリズムで激しい鼓動がする。
酸素は吸えてるけど、結構息苦しいのに。

「なんもしねーよ」
「……」
「お前を苦しめてまで、自分の欲求満たしたいとかねーから」
「っ…」
「だから、そんな嫌そうな顔すんなって」

布団の上に胡坐を掻いてる匠刀。
さすがにやりすぎたかな?的な顔をしてる。

そういう顔をさせたいわけじゃない。

私だって、どこにでもいる普通の女の子みたいに、好きな人といちゃいちゃしたいよ。
だけど、それ自体がどこまで大丈夫なのか。
今より心臓が悪くなったりしないのか、不安なんだもん。

「背中、触っていい?」
「へ?」
「服の上からちょっとだけ、な?」
「……ん」

心臓が心配なのかな。
そっと当てられた手が、私の心音を確かめてる。

「俺、桃子にとって、安心できる存在でいたいから」
「……」
「桃子に無理させたくない」

私も匠刀に無理させたくないよ。

「我慢させて、ごめんね」
「……ばーか」

優しく頬を撫でる手。
匠刀の手は温かくて心地いい。



常夜灯の薄明りの中。
匠刀の横顔を見つめる。

好きだよ、匠刀。
< 57 / 165 >

この作品をシェア

pagetop