『オーバーキル』一軍男子に脅かされています


「視線が落ちてんぞ」
「……はい」
「肩を広げるように、胸を張って~」

ついつい視線が足下に行ってしまう。
すると、前屈みになりやすく、酸素を吸いづらくなり悪循環に陥る。

視線は数十メートル先を見据えて、背筋を伸ばす。
腹式呼吸を意識することで横隔膜が動き、血流が促進される。

今まではあえて負荷がかからないようにしていたが、少しずつ負荷を加え、慣れることで循環器自体が強化されるらしい。

本当に目から鱗だ。

「桃子、校舎が見えたぞ」
「………ホントだ」

私より目線の高い匠刀は、必ず私が頑張れる目標を教えてくれる。

『期間限定、モンブランサンドだって』

お気に入りのサンドイッチ屋さんの新商品の旗を見つけて、私を励ましてくれたりもした。
こういうさりげない優しさが、本当に尽きない人だ。


「到~~着っ!!」

ピッ。
腕時計のストップウォッチ機能を止めた匠刀。

「よく頑張ったな」
「……たく、と…も、お疲れ……さんっ」

56分。
家から学校まで歩いた時間だ。

測った時間を見せてくれた彼は、ボディバッグの中から小さいペットボトルの水を取り出し、キャップを開けて差し出してくれた。
本当に文句のつけようがないくらい、できた彼氏だ。

「一口飲んだら、クールダウンすんぞ」
「……はい」

これもお決まり。
甘やかすだけでなく、ちゃんと私の体を最優先に考えてくれる。

急に足を止めたら、全身に廻った血液が心臓に溜まってしまうからだ。

「苦しくても、意識して鼻で息しろ」
「……ふ~んっ、フゥ~~」
< 78 / 165 >

この作品をシェア

pagetop