『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
揺るぎない想いとあたたかい手
土曜日の正午少し前。
桃子は白修館高校の空手道場に到着。
事前に虎太くんに伝えておいたこともあって、通用口の鍵が開けてあった。
そこから道場の中に入り、2階のギャラリー部分の端に腰を下ろす。
柱にちょうど隠れている場所から、数日ぶりの匠刀をこっそりと盗み見して。
「集合っ!」
部員全員が監督とコーチを囲むように整列する。
「風邪やインフルエンザが流行って来ているので、手洗いうがいはマメに行い、できるだけ混み合う場所は控えるように」
一糸乱れぬ『はいっ』という声が響き渡る。
新部長である前園 勇悟が、来週の予定を発表した。
「各自でクールダウンを行い、1年は片付けをして帰るように」
2、3年生はクールダウンを始め、1年の部員が慌ただしく掃除を始めた。
掃除機をかける人とモップをかける人。
濡れ雑巾で道具や器具を拭く人もいる。
匠刀は大型のウォータージャグを両手に持ち、道場を後にした。
「モモちゃん」
「……虎太くん」
「10分くらいしたら戻って来ると思うけど、その後にシャワー浴びに行くと思うから、20分くらいしたら部室の前においで」
「はい」
「あ、それと、匠刀にチャリの鍵渡してあるから」
「……ありがとう」
こっそり部員の目を盗んでギャラリーに来てくれた彼は、用件だけ伝えて部員の元へと戻って行った。