『オーバーキル』一軍男子に脅かされています

少し離れたテーブルで、匠刀は両手に花状態に女子と楽しそうにランチしている。
今朝の御礼を言いたいけれど、わざわざ声をかけに行く勇気はない。

匠刀と二人きりなら気を遣わずに済むけれど、他の子たちがいると、どうしても近寄りがたい。
兄の虎太郎も人気者だが、弟の匠刀は遊び人である意味人気者。

部活もあるし、休みの日は自宅の道場で稽古もあるだろうに。
一体、いつ遊ぶ暇があるのだろう?

しかも、白修館の普通科はかなり偏差値が高い。
桃子と匠刀は理系コースだから、総合特進コースに比べたらまだましだけれど。
それでも、入学と同時に大学受験の勉強がスタートするくらい、授業内容はかなりレベルが高い。

「中間テスト対策に、モモの家に行ってもいい?」
「塾の無い日ならいいよ」
「やったぁ」

塾がある日は学校から直行して、それ以外の日は自宅の鍼灸・整体院で手伝いのアルバイトをしている桃子。
施術に使う器具の消毒やタオルの交換、院内の清掃などだ。

津田兄弟は週に二日ほど通っている。
高校に入学するまではこの週二日が、想い人に会える日だった。

誰にでも優しくて、鍼灸院に通っている高齢者の方にも気さくに話しかけたりして。
うちの鍼灸院に通うマダムたちは、虎太くんのファンが多い。
世界選手権やアジア大会で入賞し、今年の夏に行われるオリンピックに期待がかかる。

「あ、予鈴だ。モモ、トイレに寄ってくでしょ?」
「うん」

食器を返却口へと持って行き、もとちゃんとテラスを後にしようとした、その時。


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