君と乗り越えた時
「さっきの子が、翔真と結衣ちゃんの秘密について私は知ってるのかって聞いてきたの。あの子は一体、何者なんだろう…。」
智也のことも、翔真と結衣ちゃんのことも知っているというあの子は、ただ翔真のことが好きな女の子というわけではなさそうだ。
「俺と、結衣の…。」
翔真は少し強張った顔をしながらそう呟いた。
もしかしたら二人にとって、あまり知られたくないことなのかもしれない。
話し合いをするつもりで部屋にきたのに、お互いに考えることがあって、話すことがまとまらないまま、しばらく無言の時間が続いた。
そんな時、シーンと静まり返っていた部屋に、玄関の方から物音が聞こえてきた。
その音を聞き、翔真と顔を見合わせていると、「翔真〜」と恭弥くんが呼ぶ声がした。
「ごめん、ちょっと待ってて。」
そう言い、翔真は立ち上がると、恭弥くんが呼んでいるリビングに向かった。
パタンとドアが閉まるのを見届けると、さっきまでずっと強張っていた体から力が抜ける。
…そういえば、結衣ちゃんと恭弥くんも喧嘩してるって言ってたっけ。
こんなに色んなことが重なるなんて…。
大晦日の時にみんなで集まって楽しく鍋パーティーをしていた時は、まさかこんな風に拗れてしまうなんて少しも思っていなかった。
「戻りたい、な。」
まだ数ヶ月しか経っていないのに、楽しかったあの頃が随分と前のことのように思える。
ただ楽しかった頃に戻りたいな、なんて。
ううん…、大丈夫だよね。絶対に戻れる…。