センセイ、ありがと。
すぐに荷物をまとめた。




自分のものなんてなかったから、持っていくものなんて、学校の体操服くらいだった。




「雪、行こうか。」




「……うん」





壁のシミを触って涙を浮かべている雪を見て苦しくなる。






「白く、塗り直せばよかったね。」




お金がないから、そんなことできなかったけど。





あのシミは、私が、何歳かは覚えていないけど、確かに胸の奥にある記憶。






お父さんと、お母さんが喧嘩をして、止めに入って、そしたら、頭をぶつけて。





雪はまだとても小さかったから覚えてなかったと思うけど、微かにあるんだろうと思った。





「出ようか。」






「うん」





玄関で静かに扉を開けて、静かに扉を閉めた。





今まで思いっきり開けれたこと、なかったな。






ここからどこに行けばいいだろう。



わからない。





ダメ。雪の前で涙なんか見せちゃダメだ。



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