正しい恋の始め方
 いい出会いとは何か。
 降りしきる雨の中、信号待ちをしながら永嶺(ながみね)萌香(もか)はぼんやりと考えていた。
 それは、幼馴染みへの恋心に気付いた時か。それとも、話したことのないクラスメートが消しゴムを拾ってくれた時か。もしくは、図書館で同じ本に手を伸ばした時か。あるいは、街中で絡まれているところを助けられた時か。
 だとすれば、自分にはまだいい出会いが訪れていないのかもしれない。けれど、出会い方なんていうものは単なるきっかけにすぎない訳で、結局はその後が肝心だと思うのだ。

 
「お前がそんな女だと思わなかった」

 まるで浮気でもされたかのように、恋人は萌香に非難の目を向け、吐き捨てるように言った。
 確かに品定めはしていたが、それは正式に付き合う前の話であって、恋人探しとはそういうものだろう。自分にぴったりの相手を見つけるには、会って話してみないことには分からない。
 ちらっと話したそのことがきっかけで大喧嘩となり、直感で合わないと判断した萌香は、彼との関係に終止符を打った。それは、つい先週のことだ。

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