迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 それは王族としての務めを完璧に全うし、人々に対して公明正大であること。さらに王太子の良き理解者であり、時に諫言《かんげん》も行う支持者であることなどが挙げられる。
 求められている理想像に近づくためにフィリーネは必死に努力した。けれど、最後の部分だけはどうすることもできず、クリアできなかった。

(殿下とは手と手を取り合って互いに協力するどころか、背を向けられてしまっていたから。私の努力が足りないと言われてしまったらそれまでだけど……でも……)

 これまで必死にやってきた努力は認めて欲しかった。娘として受け入れて欲しかった。
 言いようのない悲しみと虚しさが胸の奥から込み上げてきて、涙が幾筋もの滂沱《ぼうだ》として流れる。
 涙で騎士の顔がよく見えない。彼は感情を消したように淡々とした声音で「これで報告は終わりましたので」と言って馬に乗り、踵を返す。

「いや。待って。置いて……いか、ないで」
 先ほどのよりも雨風に体温を奪われているフィリーネは、掠れた声で騎士に訴える。

 やむ気配のない豪雨と狂風にその声はかき消され、とうとう騎士に声が届くことはなかった。
 雨風はさらに激しさを増し、括りつけられているマツの木がギチギチと悲鳴を上げながら激しく揺れる。その度に、身体に巻きついている縄が身体に食い込んで痛かった。

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