迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 きっと婚礼衣装の下の肌には、縄の跡がくっきりと入っているはずだ。痛みに表情を歪めていたら、突然空に閃光が走って雷鳴が轟き始めた。
(このままじゃ雷がマツの木に落ちて、丸焼けになってしまう)
 括りつけられているマツの木は、崖の上に一本だけ立っていて周りには何もない。
 なんとかしてこの状況を脱しなければ雷が木に落ち、側撃を受けて死んでしまうかもしれない。
(だけど、私にはもう気力も体力も残ってないわ)


 震えが悪化して浅い呼吸を繰り返していくうちに、意識が朦朧とし始める。
 曇天には再び閃光が走った。
 次の瞬間、ドオォンという雷鳴が響く。どうやら雷がどこかに落ちたらしい。

 次に雷が落ちるのは、自分が括りつけられているマツの木かもしれない。そんな確信めいた何かがフィリーネのぼんやりとした頭の中に広がっていく。
(私は、ここで死ぬのかしら)
 心の中で呟いた途端、雷鳴ではないバキリという激しい音が背後から聞こえた。
 吃驚して後ろを振り返れば、それまでしなっていた幹が根元近くで折れかかっている。

 どうやら風とフィリーネの体重を受けて幹が限界に達してしまったらしい。
 重力に従ってマツの木が倒れていく。
 括りつけられているフィリーネの身体も当然下に傾く。やがて、根元と繋がっていた最後の部分がバキバキと不気味な音を立てて完全に折れ、崖下へと落ちていった。
 フィリーネの浅緑色の瞳には、風によって激しく波打つ大湖が映る。

(嗚呼、本当にこれで終わってしまうのね。……次に生まれ変わるなら、もっと幸せになりたい)


 ――願わくは、次の人生こそ幸せな日々が過ごせますように。誰からも疎まれず、愛されますように。


 ゆっくりと瞼を閉じたフィリーネは、そのまま大湖へと落ちていった。

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