迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
第4話
フィリーネは暗闇の中を彷徨っていた。
(ここはどこ? どうして誰もいないの?)
周りを見渡せど、目印になるようなものは一つもない。
どこを歩いているのか、右も左も分からない。この世界には自分以外誰もいない。
ひたすら足を動かしてはいるけれど、進んでいるのかさえ分からなかった。
(もうこれ以上は歩けないわ……)
どれくらい歩いただろう。足はとうとう限界に達してしまった。
体力を削られている上、誰にも会えない心細さから胸が押し潰されそうになる。
フィリーネは胸の上に手を置いて小さく息を吐いた。
(この感覚に似た何かを、私はつい最近体験した……あれは何だったかしら?)
しかし、その疑問の答えはすぐに見つかった。
フィリーネはアーネストに婚約破棄された挙げ句、マツの木の精霊のもとに嫁がされたことを思い出したのだ。
「殿下、どうして……」
恋愛的な関係ではなかったにせよ、アーネストから婚約破棄されたことはやはり悲しかった。そして彼が公衆の面前で言い放ったマツの木の精霊との結婚。
あれはフィリーネを充分に辱める行為だった。
「侯爵令嬢がマツの木の精霊と結婚ですって」
「あらあら、とんだ御笑い種じゃない」
いつの間にか暗闇の中からは、フィリーネを嘲り嗤う声が聞こえてくる。
(お願い、やめて……)