迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
両耳を塞いでいても声はずっとフィリーネのもとに届く。
逃れたい一心できつく目を閉じていたら、突然誰かに頭を撫でられた。
「……やっと見つけた私の花嫁」
「私の運命の番」
「もう決しておまえを離さない」
この声は誰のものだろう。
不思議なことに声がした途端、フィリーネを嗤う声はぱたりと止んでいる。
フィリーネは子守歌のように優しい声音をずっと聞いていたくなった。
ところがその願いとは裏腹に、声の主はフィリーネの頭からそっと手を離していく。
(嗚呼、待って。いかないで……)
離れていった手が恋しくて、フィリーネは顔を上げて手を伸ばす。
そして、手を伸ばした先には眩しい光が輝いていた。
意識が浮上したフィリーネは、重たい瞼をゆっくりと開けた。
目の前には梁材が剥き出しになった天井らしきものが見え、視線を走らせれば出窓のようなものがある。長方形をした窓からは外の明るい光が降り注いでいた。どうやら嵐はやみ、太陽が顔を出しているようだ。
続いて天井から自分へと視線を下ろすと、フィリーネはベッドに横たわっていた。
(私、マツの木ごと崖から落ちてしまったのに助かったの?)
崖から湖まで建物四階分の高さはあった。あの高さから落ちて無事に生還したなんて信じがたい。
死んで幽霊にでもなっていないか、自分のほっぺを叩いて抓ってみる。