迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
「アバロンド侯爵家のフィリーネ、おまえは可愛いミリエラに難癖をつけて散々罵り、ひどく虐めていたらしいな。ここまで狭量な人間だとは思わなかった。おまえの様な人間は王太子妃に相応しくない。この場をもって、婚約を破棄させてもらう!」
オルクール王国の貴族や富豪の子供が入学する名門、フロエンス学園の舞踏会にて。
フィリーネはアーネストから一方的に婚約破棄を告げられた。
アーネストはフィリーネの一つ年上で、現在十八歳。さらさらとした金髪に大海を思わせる青色の瞳をしていて、すっと通った鼻梁に形のいい唇は均整が取れており、おとぎ話でいうところの『白馬に乗った王子様』のような完璧な容姿をしている。
アーネストはその完璧な顔を歪めてフィリーネを睥睨していた。
フィリーネは参加者の輪から進み出ると、困惑した表情を浮かべて問う。
「殿下、それは本気でしょうか?」
「ああ本気だ。そして俺は、ミリエラと結婚すると決めた!」
アーネストがフィリーネから視線を移した先には、可憐な少女――ミリエラ・イザート男爵令嬢が腕にそっと寄り添っている。
(まさか、初めて参加した舞踏会でこんな目に遭うなんて……)
心の中で嘆くフィリーネは整った眉を下げた。
フロエンス学園では未来の王国を担う彼らの親交を深めようと、数ヶ月に一度舞踏会が開かれる。しかし、入学してから一度もフィリーネはそれに参加したことがなかった。
その理由は、毎年開かれる王妃主催の王室展覧会に補佐役として関わっていたからだ。毎日授業が終わった後は学園と王宮を往復していた。
王宮での打ち合わせが終って帰ってきたら議事録を作成し、その後で任されている公務の書類に目を通し、授業の課題をこなす。就寝するのはいつも深夜を回ってからだった。