迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
それから暫くして。
「これでよし」
ようやっと傷の手当が終わり、シドリウスが満足そうな声を上げた。
フィリーネは壺に蓋をするシドリウスにお礼を言う。
「どうもお世話になりました。あの、シドリウス様。差し支えなければその塗り薬をいただけませんか?」
正直な話をすれば、まだ服の下に隠れている擦り傷りがヒリヒリしている。
マツの木に括りつけられていた手首以外の部分には、同じ傷があるに違いない。しかし異性の前で服を脱ぐのは抵抗があるし、身体を見られるのは恥ずかしい。
(本当だったら薬をもらうにしてもお金がいる。だけど私には払えるものがないから)
身一つでマツの木に嫁がされたフィリーネは、豪華な純白のドレスとショートベール、靴が用意されたが、お金になるような装飾品は持たされなかった。
助けてもらい、さらには薬をくれなどという不躾な要求にシドリウスは気を悪くしたかもしれない。
不安を覚えたフィリーネは下を向く。
「確かに。痛みがぶり返したら大変だな。好きなだけ使うといい」
断られても仕方がないと思っていたのに、彼は快く塗り薬を渡してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
親切な町医者に助けてもらえて良かった。受け取った塗り薬の壺を眺めながらをそんなことを思っていたら、不意に目端で何かが動いた気がした。
好奇心から顔をそちらに向けてみたら、いつの間にか目の前には小さな子供が立っている。
「きゃああっ!」