迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる

第5話



 驚いたフィリーネは塗り薬が入った壺をベッドの上に落として悲鳴を上げてしまう。
(嗚呼、いただいたばかりの塗り薬が!)
 慌てて転がった塗り薬の壺を拾おうと手を伸ばすと、指先が壺ではない何かに触れた。

 硬質で細長くて、どこか馴染みのある質感。
 摘まんで持ち上げてみたら、それは普段使っている眼鏡だった。
(眼鏡! 良かった。眼鏡も無事だったんだわ!)
 これで遠くのものもクリアに見えるし、生活していくにも困らない。
 ホッとしたのも束の間。フィリーネは急いで眼鏡を掛けて子供の姿を確認する。


 子供は十歳くらいの少年で、ふわふわとした縹《はなだ》色の髪をしていた。白く透き通る肌に上を向いた鼻は小さく、唇は果実のように瑞々しい。紫色の瞳はどこか神秘的で、彼の可愛いらしい顔立ちをさらに魅力的に引き立てていた。
 着ている服は綿の白シャツに灰色のズボン。町でよく見かける少年の服装をしている。
 まじまじと観察していたら、少年は手を後頭部にやって口を開く。

「顔色は良くなってるみたいで安心した。見つけた時は真っ青だったから一時はどうなるかと思ったよ」
「あなたが助けてくれたの?」
「そうさ。この俺が見つけてここまで運んでやった」
 どうやら彼は命の恩人らしい。背格好からして、彼一人でフィリーネをここまで運ぶのは無理そうだが、とにかく助けてくれたのは確かだろう。

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