迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
「そうだったの。どうもありがとう」
「突然落ちてくるんだから驚いたよ。こっちにだって予定ってものがあ……イテッ!」
「イシュカ、不遜な態度は控えろ」
そう言って少年ことイシュカの頭を小突いたのは先ほどまで手当をしてくれていたシドリウスだった。胸を張って鼻を高くしていたイシュカだったが、今は小突かれたところを手で擦っている。
如何にも子供らしい様子にフィリーネはくすくすと笑ってしまった。
(恐らくシドリウス様が私をここまで運んでくださったのね)
フィリーネはイシュカの隣にいるシドリウスへ再び視線を向ける。
これまで眼鏡がなくてぼやけていたので、ここで初めてフィリーネは彼の姿を捉えた。
「……っ!!」
その瞬間、フィリーネは声を失った。
浅緑色の瞳に映ったのは、恐ろしいほどに美しい青年だった。
さらさらとした艶のある黒髪は襟足まで伸びていて、少し日焼けした肌は健康そうな色をしている。アーモンドの形をした黄金の瞳には長い睫毛の影が落ち、鼻筋は通っていて唇は薄い。
何よりも、すべてのパーツが絶妙な位置に配されているため、巨匠が手がけた精巧な芸術品のようだった。すらりとした体躯で脚は長く、それなりに身長はありそうだ。
アーネストも美青年だが、シドリウスはそれを易々と超えるレベルだった。
それと眼鏡を掛けるまで分からなかったが、彼の瞳は潤みを帯びていて、今にも泣き出しそうになっている。その様子からして自分の容態はよほど悪かったらしい。もしかすると死の瀬戸際にいた可能性もある。