迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 身を案じられ、たくさん親切にしてもらってフィリーネは胸の奥が熱くなった。
(誰かにここまで純粋に心配してもらうのってあまりなかったわ)
 周りに心配してくれる人はもちろんいたが、侯爵令嬢という立場的なものが大きかった。フィリーネ自身を心から心配してくれたのはきっと侍女のカレンくらい。

 フィリーネは瞼を閉じて睫毛を震わせる。一方のシドリウスは目元を手で覆い、溜め息を吐いた。
「嗚呼、千年待ちわびた相手が目の前にいるなんて未だに信じられない。こんな機会は絶対に巡ってこないと思っていたが。奇跡というのはあるのだな」
「え?」

 彼の微かな呟きは、しんみりとした感情に浸っていたフィリーネの耳には届かなかった。
 なんと言ったのかが分からなくて、目を開けて首を傾げていたら、シドリウスが静かに問う。

「そういえば、まだおまえの名を訊いていなかった。名前は何という?」
「私はフィリーネ・ア……ただのフィリーネです」
 勘当された以上、アバロンドの姓は名乗れない。
 侯爵家の騎士から勘当された話を聞いたあの瞬間から、アバロンド侯爵にとって自分はアバロンドの姓を名乗るに値しない存在になったのだと理解した。同時に理想の娘になれなかった『出来損ないの落ちこぼれ』という烙印を押されたような錯覚を覚える。


 ずきずきと痛む胸を押さえて俯いていたら、不意に誰かが優しく手を握り締めてくれた。
 顔を上げたら、そこには整った眉を下げるシドリウスの顔があった。

「辛そうにしているが具合の悪いところがあるのか?」
「あ……いえ、そんなことは」

 気遣わしげに尋ねてくれるが、これはフィリーネの個人的な事情だ。これ以上シドリウスの厚意に甘えるわけにはいかない。
 なんとなくではあるが、彼の所作や物腰の柔らかさからは気品が窺える。
 イシュカからは一切感じないに、シドリウスからはそれがひしひしと伝わってくるのだ。だから彼が貴族階級かそれに準ずる上流階級の人間で間違いないと思う。

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