迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる

第6話



「俺もフィリーネが元気になってくれて良かった。食べるなら健康な身体が良いに決まっているし、ご主人様もお喜びになるから!」
「ええ、ありがとうイシュ……うん?」
 後半の内容に引っ掛かりを覚えたフィリーネは聞き咎める。
 体調の回復を祝ってくれたその後に、衝撃的な言葉を放ちはしなかっただろうか。
「食べるなら健康な身体?」
 可愛らしい声に反して極めて物騒な発言をしたような気がするが、こちらの聞き間違いだっただろうか。

 フィリーネが頬が引き攣りそうになるのを隠していたら、少年は真顔で答えた。
「ああ言ったよ。若くて健康なのが生け贄の最低条件だからね」
 最後まで言い終わるや、イシュカの瞳孔部分がスーッと縦長に伸びる。
「っ!!」
 言いようのない恐怖からフィリーネの心臓が早鐘を打った。悲鳴を上げたいのに声が出てこない。
(瞳孔が縦に伸びるなんて! イシュカは、人間ではないの!?)


 この世界には人ならざる種族が存在する。
 一般的に人の姿をとれるのは精霊や竜、そして神だとされており、精霊は上位精霊のみが人の姿をとれる。
 そして精霊や竜のすべては人間に対して善ではない。人間の中に悪人がいるように、精霊や竜の中にも悪い者は存在する。

 また、魔物は人間に対して完全に悪であり、知能が低いため言葉は通じず、人の姿もとれない。姿形は動物に似ているが、普通の動物と違って見た目は薄気味悪い上に卵が腐ったような腐敗臭を放っているのですぐに判別ができる。

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