迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 オルクール王国は他国と違って魔物の発生は建国以来確認されていない。
 百年に一度瘴気が発生するかしないかくらいで、量も微量のため人体に影響はない。非常に恵まれた肥沃の土地だ。
 他国と違って魔物がいない理由は、太古の昔から力のある精霊が数多く棲んでいるからだと言われているが、実際のところ定かではない。

 というのも、ほとんどの人間は魔力を有していないので彼らの姿が認識ができないのだ。精霊を認識できるのは魔術師か、精霊が人間に姿認識の魔法を付与した時だけだ。

 そしてフィリーネはというと、魔力持ちでもないただの一般人。本来はイシュカが見えないはずだが、姿認識の魔法を付与されたのだろう。その姿はしっかりと瞳に映っている。

 忙しなく思考は巡っているのに、イシュカに圧倒されて何から喋って良いのか分からない。
 やっと思考がまとまっても、喉がカラカラに渇いて何も言えなかった。

「もしかして、俺の正体が知りたいの? まあ、水霊とでも名乗っておこうかな」
 イシュカはニヤリと笑って白くて鋭い歯を見せつけてくる。
 フィリーネの背中にはぞくりと寒気が走った。

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