迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
精霊には人間に対して悪である者が存在する。その中には当然、人間を食べる者も含まれる。
フィリーネは震える唇から、声を絞り出した。
「あ、あなたのご主人様が私を食べるの? その方はどこにいるの?」
フィリーネが問うとイシュカがくきょとんとした表情で首を傾げた。
「何言ってるんだよ。おまえの目の前にいるお方こそ、俺の主人であるシドリウス様だ」
「嘘っ……」
フィリーネは瞠目した。
まさか親切にしてくれていたシドリウスがイシュカの主人だったなんて。
イシュカが人間でないのなら、当然彼も人間じゃない。
無条件に与えられていた優しさは、食材の健康状態に問題がないか確認するためだったのだと合点がいく。
これはマツの木に宿っているかも分からない精霊に嫁がされるより、よっぽど最悪な状況だ。せっかく運良く一命を取り留めたのに、これではただのぬか喜びで終わってしまう。
フィリーネが顔面蒼白になっているのに対して、イシュカは浮かれていた。
「ご主人様、見た目はガリガリのガリでそそられないかもですけど、三百年ぶりに生け贄が落ちてくるのはやっぱり嬉しいですね!」
フィリーネはさらに鈍器で殴られたような衝撃を受け、目眩を覚えた。
イシュカはフィリーネのことを生け贄と称している。
「待って。私は生け贄になった覚えはないわ」
フィリーネはマツの木に嫁がされただけであり、生け贄になったつもりはない。