迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 恥ずかしながら、来年成人するというのに閨教育も受けていなかった。本来であればフィリーネの母である侯爵夫人が指南するのだが、彼女はフィリーネを産んで亡くなっている。代わってアーネストの母である王妃がフィリーネに閨教育を施さなくてはいけないのだが、彼女は床に伏せっている国王に付きっきりだ。

 アーネストとの結婚は、フィリーネが成人と見なされる十八歳になってから。そしてそれよりも先にアーネストは王位を継いで国王になる。
 まずは彼の王位を盤石にする方が優先されているため、フィリーネの閨教育は遅れに遅れていた。
 したがって、フィリーネの表情に人一倍含羞の色があるのも当然のことと言える。


 顔の熱を取るべくパタパタと手を扇ぐフィリーネ。
 フィリーネの反応を見たイシュカはにんまりと笑った。

「生娘のようで安心した。生け贄には毎回確認しているからそう恥ずかしがるな。というわけで、早速ご主人様の居室を整えに行かないと!」
「待てイシュカ」

 今にも部屋から飛び出してしまいそうなイシュカを呼び止めたのはシドリウスだった。
 イシュカは顔だけをシドリウスの方に向けてくわっと口を開く。

「待てなんて言っている場合ですか? 人間が生け贄を捧げなくなってから三百年ぶりなんですよ? これが張り切らずにいられますか!!」
「しかしだな……」

 二人が会話を繰り広げている間に冷静さを取り戻したフィリーネは、状況を整理した。

< 30 / 71 >

この作品をシェア

pagetop