迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる

第7話



 イシュカは大湖に生け贄の乙女が捧げられたと言っていた。それから三百年ぶりになるとも。
 フィリーネはマツの木に嫁がされた身ではあるが、様々な条件が重なって大湖へと落ちてしまった。

 イシュカは自分を水霊と名乗っていて、彼の主はシドリウス。
 それらを踏まえて、シドリウスの正体へとフィリーネは辿り着く。
 分かった途端、肝を潰した。


「シドリウス様は……大湖の暗黒竜ですか?」


 暗黒竜は七百年に竜王の宝玉によって眠らされ、湖底に沈められたはずだ。
 なのに、どうして目覚めて活動しているのだろうか。
 疑問はまだある。どうして七百年前のように暴れ回らないのだろう。

(暗黒竜が起きているなんて王国中に知れ渡ったら大問題になるわ。中でも王宮は蜂の巣をつついたような大騒ぎになるでしょうね)
 アーネストや国王陛下、そして防衛大臣などは顔を青くして直ちに対策本部を立ち上げ、暗黒竜討伐に乗り出すはずだ。とはいっても、これは仮定の話であって実際は誰も暗黒竜が目覚めているなど知らないのだが。

 いずれにせよ、フィリーネはこれから生け贄としてシドリウスに食べられる。
 死が迫っているのだと戦慄していたら、シドリウスが腕を組んでため息を吐いた。

「俺はこの大湖に住んでいる竜だが、人間たちの間で語り継がれている暗黒竜じゃない」
「ですが……その、たくさんの人々を苦しめていたと建国史に記されていました。建国史は国が公式に編纂した歴史書ですので、間違いないです」

 王妃教育の一環で建国史を隅から隅まで習って覚えているフィリーネには、シドリウスの話が信じられなかった。
 そして、建国史は王室が運営する編纂局で作られる。各地から名のある学者たちが集められ、正確な内容か精査した上で纏められるので、その辺の歴史書よりも正確性が高いと評判だ。
 フィリーネは建国史ほど信憑性の高いものはないと信じて止まなかった。

< 31 / 71 >

この作品をシェア

pagetop