迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
フィリーネの覚悟を聞いたシドリウスは一瞬目を瞬く。それからすっと目を細め、フィリーネを優しく抱き寄せてきた。
「その言葉が聞けてとても嬉しい。私はおまえをずっと大切にするつもりだ」
「はあ、えっと。ありがとうございます?」
甘やかな色を帯びた美しい顔が間近に迫り、フィリーネは目のやり場に困る。
恐らく大切にするというのは大切に食べるという意味だろう。
味わってくれるのはありがたいが、痛いのは嫌なのでこちらとしてはひと思いにばくりと一気に食べて欲しい。
(シドリウス様はちょっとずつ楽しみたいようだから、どこかで落とし所を見つけないといけないわ)
双方が納得する着地点はどこだろうと真剣に悩んでいたら、シドリウスが唐突に質問を投げかけてくる。
「ところでフィリーネ。おまえは今いくつだ?」
「えっと、十七です。それが何か?」
年齢を聞かれてフィリーネは思案投げ首になる。
するとシドリウスは得心がいったというように何度も頷いた後、とんでもないことを口にする。
「なるほど。少しあどけないのはそういうことか。分かった。フィリーネが十八の成人を迎えるまで待つとしよう」
「え?」
フィリーネは聞き咎めた。
食べられる決意をしたばかりなのに肩透かしを食らってしまう。
(どうして十八歳になってからなの?)
理由が分からず当惑していたら、シドリウスがフィリーネの頬を優しくつつく。
「まだ時期じゃないと言っているだけだ。こういうのはきちんと大人になってからするものだからな」
「は、はあ……」
食べるのに大人も子供も関係ないと思うのだが。
フィリーネは胡乱な表情を浮かべた。
シドリウスはフィリーネが不安を抱いていると思ったのか、安心させるように穏やかな声で言う。
「心配せずとも成人するまでの間も私の側に置くし、大切に可愛がるから」
側に置いて大切に可愛がる。一体何のために?