迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


(シドリウス様は私を愛玩(ペット)にしていっぱい可愛がった後で食べるの? 可愛がられる期間なんて必要ないわ)
 一年後よりも今ここで潔く食べてくれた方がフィリーネとしては楽になれる。だから早く食べて欲しい。そう言いかけたところでフィリーネはふと、自分の身体へと視線を移す。
(イシュカにも言われたけれど。私の身体、お世辞にも肉付きが良いとは言えないわね)

 シドリウスが大人になるまで待つと言い出したのは、もしかすると少しでも食べられる肉の量を多くするための肥育期間を設けるという意味なのかもしれない。
 それなら非常に納得がいく。
 しかし、そうはいっても一年という期間は、十七歳のフィリーネには長く感じられた。


「シドリウス様、今すぐじゃなくていいのでもう少し早く召し上がっていただくことはできませんか? 私、頑張ってみせますから」
 一年じゃなくとも数ヶ月あればきっと肥れるはずだ。
 フィリーネが拳を胸の辺りで掲げて意気込んでみせたら、シドリウスがピシリと音を立てるように固まった。

 数秒経ち、彼は深いため息を吐くと、目の上に手を置いて天井を仰ぐ。
「嗚呼、やっと巡り会えたというのにひどい試練だ!」
「し、試練!?」

 シドリウスからすれば、折角一年待つと決意した生け贄から早く食べて欲しいと誘惑され、非常にもどかしいのかもしれない。
 彼の気持ちを真剣に想像していたら、急に目の前が真っ暗になった。

 気づけば、シドリウスに抱きしめられているではないか。
「シ、シドリウス様!?」
 異性と触れ合ったことも密着したこともないフィリーネはこの状況に耐性がない。
 心臓の鼓動は激しく音を立て、全身の血が沸騰する。

 もう何をどうしたらいいか分からない。頭はパニックになり、とにかく慌てふためくフィリーネは涙目になった。
「フィリーネが可愛い過ぎて一年後に正気を保てる気がしない。……少しでもおまえの負担が減るよう、定期的にガス抜きさせて欲しい」
 フィリーネは、ぱくぱくと口を動かした。

(これがシドリウス様の愛玩(ペット)の可愛がり方なの? それにガス抜きって……こんなの、こんなの絶対無理だわ!)
 フィリーネは声に出して叫びたかったが、結局声にはならなかった。

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