迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
第2章 生け贄兼愛玩生活、始まります

第8話



 翌朝、フィリーネの寝覚めは悪かった。
 というのも、昨夜はある種の緊張感に包まれてほとんど眠れなかったからである。
 その原因はもちろん、大切に可愛がると宣言したシドリウスだ。

 彼は言葉通りに次期食料であるはずのフィリーネを愛玩(ペット)として可愛がり、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
 腰辺りまである長い髪をブラシで丹念に梳かしてくれたり、お茶を淹れてくれたりした。
 誰もが息を呑むほどの美しさを持つ青年だが、その正体はこの世界で最強と位置づけられている竜だ。万が一、フィリーネが彼の機嫌を損ねでもしたら、片手でひねり潰されてしまうだろう。
 しかも、彼は歴史書上で言い伝えられている暗黒竜でもある。
 いろんな意味で畏れ多い相手に世話を焼かれたフィリーネは何度も兢々とした。


 自分ですると断っても、シドリウスからは「目覚めたばかりで体調も全開していないのだから遠慮するな」と一蹴され、押し切られた。
 侯爵令嬢だったフィリーネは、様々な局面でカレンや他の侍女たちに身の回りを世話してもらっていた。だからそれに対して抵抗感はなく、寧ろ慣れている。

 ところが、シドリウスに世話を焼かれるのはどうにも慣れなかった。
 相手が異性でとびきりの美人というのも理由にあると思う。
 とはいえ、清拭をすると言い出された時は流石のフィリーネも丁重に断り、頑として譲らなかったが。

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