迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
断固拒否を続けるフィリーネを見て、何か思うところがあったのだろう。シドリウスもそれ以上は食い下がってこなかった。
清拭を回避できて胸を撫で下ろしたのも束の間。
フィリーネはその後もことあるごとにシドリウスに絡まれ、緊張感に包まれたままベッドに入った。そのため、心が安まる暇はなく、ぐっすり眠れなかったのだ。
ベッドからむくりと上体を起こしたフィリーネは、欠伸をしながら目を擦る。それから深い溜息を一つ吐いた。
(いくら私が愛玩だからって、ここまで可愛がらなくてもいいのに)
シドリウスの行動は可愛がるというよりも過保護という単語の方がしっくりくる。生まれたばかりの雛鳥を庇護下に置き、甲斐甲斐しく世話を焼く親鳥のようだ。
これからこんなことが毎日続くのだろうか。
不安が過り、今後どう対処すべきかフィリーネがうんうんと唸っていたら、部屋の扉が開いた。
「おはよう、フィリーネ。今朝はよく眠れた?」
そう言って部屋に入ってきたのは、水霊のイシュカだ。一瞬、シドリウスが入ってきたのかと思って身構えてしまった。
フィリーネは、イシュカの登場に安堵の息を漏らす。
「おはよう、イシュカ。ええ、少しは眠れたわ」
フィリーネはサイドテーブルに置いてある銀縁眼鏡を掛け、笑みを浮かべて挨拶する。
「新しい生活で慣れないと思うけど、無理はしないで」
「ありがとう。大丈夫……」
でもないけれど、喉の先まで出かかった言葉はグッと呑み込んだ。
イシュカ本人の口からは聞いていないけれど、シドリウスを『ご主人様』と呼んでいるのだから従者で間違いないだろう。きっと、クレームを伝えたところで困らせるだけだ。