迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


「言いそびれてたけど、ご主人様は所用で出かけられている。お昼までには帰ると仰っていた」
 シドリウスが不在と知り、フィリーネは少しホッとした。生け贄として食べられる覚悟はできても、愛玩として可愛がられる覚悟はまだできていない。
 昨日のことを思い出しただけで、フィリーネは顔を真っ赤にしてしまう始末だ。

(ううっ、愛玩方面もこれからしっかり覚悟していきましょう)
 フィリーネは胸の上に手を重ねて密かに誓う。
 イシュカはフィリーネの様子を見て怪訝な表情を浮かべていたが、入り口を一瞥した後、口を開く。


「朝ご飯ができるまでもう少し時間が掛りそう。先に屋敷の案内をしようと思うんだけど……動ける?」
 意識を取り戻してから、フィリーネはずっとこの部屋で過ごしている。今後行動範囲を広げるためにも、屋敷を案内してもらえるのはありがたい。

 フィリーネは肯うと床に足を付け、イシュカの後に続いた。
 まず最初に連れて行かれたのは屋敷の外だった。

 年季の入ったオークの扉を開け、フィリーネを出迎えてくれたのは丹念に手入れされた美しい小庭だ。
 季節を通して楽しめる多種多様な多年草に、見頃を迎えたブルーベルや、ライラック、フジの花などが緑の中で彩りを添えている。
 建てられている屋敷は、ガルシア領特有の蜂蜜色の石灰岩で造られていた。屋敷は重心の低い二階建てで、窓には黒色の格子が嵌め込まれており、屋根はS字の瓦が敷かれ、一部の壁はツタで覆われている。

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