迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 古めかしい見た目から何百年も前に建てられたのは一目瞭然。にもかかわらず、これまできちんと管理されてきたのか屋敷は傷んだところが一つもなかった。
 まじまじと屋敷を眺めていたら、隣に立っているイシュカが説明を始める。

「俺たちが暮らしているのは、大湖近くの森の中だよ。町からは離れてはいるけど、歩いて行けない距離じゃない」
 説明を聞きながら小庭の方に再び身体を向けるフィリーネ。
 周囲を見回してみるとイシュカの言う通り、鬱蒼とした樹木に覆われていた。そして生い茂る樹木の奥には美しくキラキラと輝く湖面が垣間見える。

「森の中に屋敷はあるけど、大湖からも近いし誰かに見つかりそうだわ」
 ぽそっと感想を呟けば、イシュカが心得顔で白い歯を見せてくる。

「そこはご主人様の魔力が働いているから問題ない。屋敷を中心に数百メートルにわたって結界が張ってあるからね。人目につくことはないし、結界内に入るためにはご主人様の許可が必要になるから。だから勝手に、特に人間が入ってくることはないよ」
「そうだったの。でも私は魔力がないから、どこまでが結界内なのか境界が分からないわ」
 何かの拍子に外に出て戻れなくなってしまったら大変だ。

 一応どこからが結界の外なのか、分かる物があるなら知っておきたい。
「フィリーネに認識できる目印が一つある。それはオーク樹の宿り木だ。結界の境界には必ず屋敷を取り囲むように宿り木が点在しているからすぐに見つけられるよ」
「宿り木ね。ありがとう、覚えておくわ」
 外での説明が一通り終わると、続いて屋敷内の案内が始まる。

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