迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる

第9話



 屋敷の一階は居間と食堂、それから水回りであるキッチンとバスルーム、トイレがまとまっていた。
 因みに、フィリーネが大湖から助け出されて運び込まれていた部屋は居間だった。
 また、ここで知らされた事実だが、ベッドはわざわざ運び込まれたという。

「屋敷裏の工房から運んだだけだけどね。重症患者の時なんかでも使うから」
「重症患者? もしかしてここは薬局なの?」
 屋敷裏に工房があると言っていたので診療所ではなさそうだし、小庭には景観を崩さないよう配慮しながらも、多種多様な薬草が植えられていた。

 それらを踏まえてフィリーネが尋ねたら、イシュカはそうだと頷いた。
 曰く、シドリウスは人間相手に薬の提供をしているという。基本的にはお金を取るが、貧しく生活に余裕のない人には無償で渡しているそうだ。

 町では、魔術師の一族が大湖近くの森に住みついている話になっていて、ちょっとした怪我から医者でもお手上げな不治の病まで何でも効く薬を作ってくれると評判らしい。
「これでもご主人様は相手を選んでるから、結界内に入れる人間と入れない人間がいるけどね」
 イシュカの話を聞いてフィリーネは目を丸くした。

(まさかシドリウス様が町の人相手に薬を作っているなんて。それが事実なら歴史書に記されている暗黒竜とますます違ってくるわ)
 フィリーネは改めて歴史書と実物の矛盾について思案する。
 歴史書に記された大湖の暗黒竜は、人間をいたぶり八つ裂きにするのを好むような残虐非道な竜だった。
 その一方でフィリーネが出会ったシドリウスは、優しく手を差し伸べてくれる。

(昨日イシュカが言っていたように、歴史書の方が間違っているのかしら?)
 王妃教育でことあるごとに歴史書は真実だと言い聞かされてきたフィリーネにとって、歴史書が嘘だなんてにわかには信じがたい。

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