迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 それなのにイシュカが言った『権力者のさじ加減でどうとでもなるただ創作物』という発言がどうにも忘れられず、頭から離れないでいる。
(私が学んできた歴史が王室の都合でねじ曲げられてきたというのなら、どれが真実でどれが嘘なのかしら……)
 腕を組んで懊悩していたら、イシュカが声を掛けてきた。
「何をぼーっとしてるの? 二階の案内をするから早く来て」

 いつの間にか隣にいたはずのイシュカは、玄関ホールの階段を数段上ってこちらに振り向いていた。
「まっ、待って!」
 我に返ったフィリーネは小走りになってイシュカを追いかけた。


 二階は手前からシドリウスの書斎と居室、向かいにイシュカの部屋と空き部屋が一つある。一階はいろいろと見て回ったが、二階はそれぞれのプライベート空間ということもあって口頭だけの説明で終わってしまった。
(屋敷の説明はこれで全部のようね。これから食堂で朝食かしら?)

 朝から何も食べずに動いていたのでそろそろ小腹が空いてきた。
 フィリーネが成り行きを見守っていたら、イシュカは踵を返さずに真っ直ぐ廊下を進んでいく。フィリーネが目をぱちぱちと瞬いていたら、イシュカが空き部屋の前で立ち止まって手招きをした。

「ご主人様から、フィリーネは今日からこの部屋を使うようにと言付かっている」
「私の、部屋?」
 フィリーネは空き部屋の前に移動しながらイシュカに質問を投げる。
 イシュカは頷くと、扉を開けるようドアノブへ視線を投げてきた。フィリーネは指示通り、ドアノブに手を掛けてゆっくりと扉を引いた。

「わあっ!」
 中を見た途端、思わず感嘆の声を上げてしまった。

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