迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
部屋の右手には四柱式の天蓋付きのベッドが置かれ、爽やかなページグリーンを基調とした壁紙やソファが置かれている。その他に揃えられている家具は机とクローゼット、ドレッサーの三つで、すべてこの家の梁材と同じオーク材が使われている。正面にある縦長の窓はいくつも並び、日当たりも良さそうだ。
部屋の一つ一つは素朴なのに、全体的に見てみると乙女心をくすぐる可愛らしい設えだった。
「こんなに素敵なお部屋を用意してもらえるなんて想像もしていなかったわ。本当に私が使っていいの?」
生け贄で愛玩《ペット》なので、体調が回復したらその扱いは雑になると思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば自分の想像を遙かに上回る好待遇で、フィリーネは気後れしてしまう。
「ご主人様はフィリーネに何でも与える気でいる。こんなの序の口だよ」
呆気にとられているフィリーネに対してイシュカは何故か胸を張って誇らしげだ。
フィリーネの中で、やはり彼は歴史書通りの暗黒竜ではないという感情が芽生えていく。
「……シドリウス様が戻られたらお礼を言わないと。私のために部屋まで用意してくれるんだもの」
自然と微笑みを浮かべるフィリーネ。
そのあまりの純真な微笑みに、イシュカは人差し指で頬を掻く。
「その笑顔はシドリウス様を半殺しにするだけの殺傷能力はあるかも」
「え?」
「ううん、何でもないよ」
意味深なイシュカの呟きは非常に小さく、フィリーネの耳には届かなかった。