迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
それから少し時間が流れたところで、イシュカは何かに反応して入り口へと振り返る。
「どうやら朝食の準備ができたみたい。食堂へ行こう」
「分かったわ。行きましょう」
食堂へ足を運べば、先ほどまで何も置かれていなかったテーブルの上に、それは豪華な朝食が並んでいた。
カリカリのベーコンにミルクがたっぷりと使われたトロトロのスクランブルエッグ。具だくさんの野菜スープに焼きたてのバターロール、真っ赤なイチゴのジャム。そしてコップにはミルクが注がれている。
「どれもとっても美味しそう」
人間の食事など知らないはずなのに、ここまで豪華な食事を用意してもらえるなんてこれまた驚きである。
ふと、フィリーネはそこで疑問が湧いた。
「そういえば、このお屋敷に暮らしているのはシドリウス様とイシュカ、それと私を入れて三人のはずだけど、誰が朝食を用意したの?」
まさかこれはイシュカの魔法によるものだろうか。それとも、使用人を雇っているのだろうか。
様々な想像を巡らせていたら、イシュカが苦笑まじりに言う。
「悪いけどフィリーネが想像しているのとは違うからね。俺は水霊だから火の魔法は扱えないし。料理を作ったのはここに住み着いている家事精霊だよ」
家事精霊とは古い家に住み着き、人がいない時や夜眠っている時を見計らって家事を行ってくれる精霊を言う。
精霊は基本的に人間の前では姿を消しているが、仲間の前では姿を現す。ところが、家事精霊は非常に恥ずかしがり屋で無口なので、他の精霊の前でも姿を見せないらしい。
ならば、どうやってコミュニケーションを取っているのか尋ねてみたら、家事精霊の放つ魔力を感知してそこからいろいろと感じ取っているという。