迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


「ご主人様は家事精霊に会ったことがあるみたいだけど、俺は一度も姿を見たことがないんだよね。まあ、何が言いたいかとか大体分かるから困りはしないんだけど」
「イシュカも会ったことがないのね。……家事精霊さん、朝食を用意してくれてどうもありがとう」

 どこにいるか分からない家事精霊に向かってフィリーネは感謝を伝えた。それから席に座り、早速朝食を食べようと、カトラリーを手に取る。
 向かいではイシュカがドカリと腰を下ろし、用意されているお茶を啜り始めた。

 フィリーネは彼の前にお茶しか置かれていないことに気がつく。
「イシュカは先に朝食を済ませたの?」
「いいや、俺は水霊だから人間と同じような食事はしない。数十年に一度、食事ができればそれで満足なんだ」
「す、数十年に一度!?」
 さらりと言われてフィリーネは一驚を喫する。

 人間の姿をしているイシュカだが、やはり中身はまったく違うようだ。
 数十年に一度の食事だけで空腹が満たされる。そんな身体が手に入るなら、長く厳しい冬を寒さと飢えで苦しまなくて済む。
 フィリーネは眉を寄せて俯いた。

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