迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる

第10話



(北の穀物庫は備蓄量が少なく、冬場は餓死者が多く出る。今年の冬は大丈夫かしら)
 公務の一環でフィリーネが昨年から任されていたのは、五つの穀物庫の管理だった。
 東西南北と中央に一つずつ設置されている穀物庫は、いざという時のために穀物だけでなく保存食などが備蓄されている。
(夏でも寒い北部は、毎年作物が不作で収穫量も少なくて。それで今年は……あ)
 そこまで考えてフィリーネは思考をピタリと止める。

 アーネストに婚約破棄された以上、穀物庫を取り仕切る権限はもうない。
 婚約者としての習慣や考えが、嫌というほど身に染みていることを思い知らされ、フィリーネは取り繕うように口を開く。

「数十年に一度だけの食事だなんてとても経済的なのね」
「経済的かは分からないけど、臓物以外の肉なら綺麗に食べるよ」
 フィリーネの心の動きなど知る由もないイシュカは呑気に答えながら空になったカップにお茶を注ぐ。

「精霊や竜は食事をそれほど必要としない。空気中に含まれてる魔力を吸収してそれを活動エネルギーに変えているから。固体それぞれで考え方は違うけど、ご主人様は人間の生活に合わせて食事をする。きっと俺よりも楽しい食事ができると思うよ」
「そんなことない。イシュカとの食事も充分楽しいわ」
 フィリーネの朝食に付き合ってくれるのだから、イシュカだって充分優しい。

 イシュカは一瞬目を見開き、やがて顔を背けてから口を開く。
「ほら、早く食べなよ。料理が冷めるよ」
 照れている姿にフィリーネはくすりと笑い、言われた通り目の前の朝食を食べ始めた。

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