迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 家事精霊が用意してくれた料理はどれも非常に美味しかった。
 塩気の効いたベーコンから漂う燻製香は食欲をそそり、一口噛めば肉汁と甘みが口いっぱいに広がるし、スクランブルエッグも舌の上で蕩けて美味しかった。野菜スープは具材がくたくたに煮込まれていて優しい味がするし、焼きたてのバターロールはふっくらとしていて柔らかく、イチゴジャムと一緒に食べればさらに美味しさが跳ね上がった。

 しかし――。
「……ごめんなさい。もうお腹がいっぱいで食べられないわ」


 皿の上にまだ料理が半分残っている状態でフィリーネのお腹は苦しくなっていた。
 フィリーネが肩を窄めて謝ると、テーブルの上にあった皿は跡形もなく消えていく。どうやら家事精霊が下げてくれたようだ。
 姿が見えないので家事精霊がどんな表情をしているのか分からないが、フィリーネは残してしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
(家事精霊さんが折角作ってくれたのに。フロエンス学園に入学してからは毎日学業と公務で忙しくて軽食しか摘まんでいなかったから。昔より胃が小さくなっているんだわ)

 これはフィリーネにとって大問題だ。これから一年掛けてたっぷりと肥っていかなくてはいけないのに、この体たらくのままでは非常に困る。
 今のフィリーネの身体は誰が見ても華奢で肉付きは悪い。淡い期待を抱いていた胸の膨らみは発育が悪かったのか育たなかった。

(私はシドリウス様に美味しく召し上がっていただくの。それが私の人生に課せられた最後の務めだから。もっともっとたくさん食べて大きくならないと!)

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