迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
自分の不甲斐なさにしゅんと項垂れていたら、丁度玄関の扉が開いて閉まる音が聞こえてくる。コツコツと廊下に歩く足音を響かせてやって来たのは、シドリウスだった。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
イシュカが席を立って挨拶をするのでフィリーネもそれに倣って席を立つ。
「おはようございます。先ほど、イシュカに私のお部屋を案内してもらいました。私のために部屋を用意してくださり、ありがとうございます」
ワンピースの裾を摘まんでお礼を口にすれば、こちらを見ているシドリウス様の目元が優しく緩む。
「好みが分からなくて、どんなものを取り揃えればフィリーネが喜んでくれるのか、熟考して準備したんだ。喜んでもらえてホッとした」
シドリウスはフィリーネに近づくと、微笑みを浮かべる。
昨日のことがあって身構えていたフィリーネだったが、今日のシドリウスは、何というか落ち着いているように見える。
(昨日あれほど世話を焼いてくれていたのは、もしかして私を患者扱いしていたから?)
よくよく考えてみたら、昨日はまだ目覚めたばかりで本調子ではなかった。
シドリウスがいろいろとフィリーネに尽くしてくれたのは、体調面を気遣ってだったからなのかもしれない。
(可愛がるって言われたから、てっきり昨日みたいな状況が頻繁に起きるのかと思っていたけど。そうじゃないのね。良かった……)
フィリーネはほっとして小さな溜息を吐く。
しかしそう思ったのも束の間。シドリウスは、じっとフィリーネを見つめてくる。