迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
イシュカは腰に手を当てると口を開いた。
「朝から周りの目も憚らずに甘い空気を垂れ流すのはやめてください。見ているこっちが胃もたれを起こしてしまいそうです」
「周りの目と言っても、ここには私とフィリーネだけだ」
そんな風にシドリウスが嘯くので、とうとうイシュカは額に青筋をぴしりと立てた。
「俺や家事精霊がいるでしょうが! 何あたかも空気扱いしてくれているんですか!!」
頬を膨らませて怒るイシュカにシドリウスはやめるように手で制す。
「これでも充分、私は自重している。それにフィリーネを愛でて何が悪い? これほど可愛いのだから愛でて当然だろ?」
「……ハイ、ソノヨウデスネ」
何を言っても無駄だと判断したイシュカは遠くを見るような目で天井を見つめて答えた。
「あのっ、シドリウス様は出かけられていたようですがどこへ行っていたんですか?」
イシュカが相当疲れた顔をしていたので、場を和ませるべく、フィリーネはシドリウスに尋ねる。
「忘れていた。おまえに贈り物があったんだ」
「贈り物、ですか?」
素敵な部屋を与えてもらったのに、これ以上何を贈ってくれるのだろう。
頭の上に疑問符を浮かべていたら、付いてくるようにと言うのでフィリーネはシドリウスの後に続いた。
そうして到着したのはフィリーネの自室にある、クローゼットの前だ。