迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
「眼鏡をしている私は、髪色もあって老人みたいに見えます。そんな私が素敵なドレスを着たところで、似合うはずがないんですっ」
息継ぎもせずに一気に捲し立てたフィリーネは、俯いてキュッと唇を引き結ぶ。
それから暫くの間、室内には沈黙が落ちた。
無言のままのシドリウスとイシュカに、冷静さを取り戻したフィリーネは後悔の念が押し寄せていた。自分が抱いているコンプレックスなのに、八つ当たりしまった。
(シドリウス様にもイシュカにも困らせる態度を取ってしまったわ。もしかしたら、気分を害されてしまったかもしれない。……ここは穏便に済むように謝らないと)
フィリーネが謝ろうと口を開き掛ける。すると、シドリウスの方が先に沈黙を破った。
「……眼鏡を気にしているのか?」
「へ?」
唐突な質問にフィリーネは目を瞬く。
シドリウスはじっとフィリーネを見て、納得するように大きく頷いた。
「確かに眼鏡はいけない。レンズが光に反射してフィリーネの可愛らしい浅緑色の瞳が隠れるし、顔全体もはっきりと見えないのだから」
シドリウスはフィリーネに近づくと優しい手つきで眼鏡を外し、自身の額をフィリーネの額にコツンとつけた。
「ひゃっ!?」
突然の行動に一驚して変な悲鳴を上げてしまう。
咄嗟に離れようとしたら、動くなと言うようにシドリウスに両腕を掴まれた。
「少しじっとして」
「……っ」
フィリーネは目のやり場に困った。いくら視線を彷徨わせてもシドリウスの完璧に整った顔が視界に入ってくるのだ。
だからギュッと目を瞑る。これ以上、至近距離でシドリウスの美しい顔を眺めていたら、気絶してしまう自信があるから。