迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
「フィリーネ、もう一度鏡で自分の姿を見てくれ」
フィリーネは我に返ってもう一度、鏡に映る自分の姿を確かめてみる。
顔立ちがはっきりした分、先ほどまで抱いていた印象ががらりと変わった。
(これが私なの? ……まるで別人みたい)
ドレスは、フィリーネによく似合っていた。
新しい自分の姿に見入っていたら、シドリウスが口を開く。
「今回は視力を回復させたが正直、私はどんなフィリーネも受け入れるつもりでいる」
「え……」
フィリーネの胸がドクリと跳ねる。胸の奥がむず痒い。
恐らくシドリウスは最終的に食べられたらそれでいいという意味で言ったに違いないが、フィリーネにはどんな自分でも許してもらえた気がした。
フィリーネは目を閉じて睫毛を震わせる。
「ありがとうございます。シドリウス様」
再び目を開くと優しく微笑むシドリウスが、いつの間にか顔を覗き込むようにして立っている。
「お礼などいい。これでフィリーネの浅緑色の瞳に私の姿を閉じ込められるのだから」
「……っ!」
フィリーネの顔が再びカッと赤くなり、心臓が激しく鼓動する。
(シドリウス様に他意はない。ないって分かっているけど距離が近いのには慣れないわ)
彼の黄金の瞳には、真っ赤になった自分の顔が映っている。
「嗚呼、赤くなっているフィリーネも可愛い!」
シドリウスに言われて、フィリーネの顔から余計に火が噴く。
部屋の隅で控えていたイシュカはそんな主の様子に「完全に欲望丸出しじゃん」と毒づいた。