迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる

第12話




 
 夜の帳が下りた森の中は、穏やかな静寂が流れていた。
 シドリウスは屋敷の裏にある工房で薬を作っていた。
 作る、と言っても薬師のようにシドリウス自らすりこぎ棒やナイフを手に作業をするわけではない。すべて魔法で操作して、工程を確認しながら一つの薬を完成させる。
 今回作っているのは喘息を抑える薬だ。
 これは常連客のための薬で、彼とはそろそろ五十年くらいの付き合いになる。
(あんなに小さかった子供がもう年寄りとは。いつものことながら人間は短命だな)

 竜は人間とは違って千年も二千年も生きられる。その一方で長命種の竜は短命種の人間と違い、厄介な問題を抱えている。
 それは寿命のほとんどの時間を、運命の番探しに費やさなくてはいけない点だ。
 運命の番とは、生涯の伴侶を意味する。竜は狼やハクトウワシなどと同様に、一生涯に同じ相手と添い遂げる。
 竜のオスもメスも出会えた番を大切にし、それはそれは相手を慈しむのだが、大半の竜は番に巡り会えないまま寿命を全うする。
 もともと竜の数が少ないのもあるが、彼らの運命の番に何故か人間が含まれることにも原因がある。

 数の少ない竜に対して人間の人口はその何倍にも相当する。しかも人間は竜のように相手が運命の番だと認識できない上、竜が瞬きしている間に結婚を決め、子供を産み、老いていく。見つけ出せたとしても既に別の誰かと一緒になっていり、老いていたりする場合が多いのだ。
 竜は決して運命の番に妥協はしないが、相手に伴侶がいるとなれば潔く身を引く。
 したがって、運命の番を見つけ出すのは竜にとって死活問題であり、至難の業だった。


< 56 / 71 >

この作品をシェア

pagetop