迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
(フィリーネを見つけ出すまで千年掛かった。この六百年は大湖周辺から出られず、さらに三百年前からは生け贄も捧げられなくなった。もうダメだと諦観していたが、無事に出会えて良かった)
大湖周辺から出られないシドリウスのもとにフィリーネが現れたのはまさに奇跡だった。
イシュカがフィリーネを屋敷に運んで来たあの瞬間を、シドリウスは一秒たりとも忘れることはできない。
竜は相手を視界に入れて初めて番かどうかが分かる。
フィリーネを一目見るや魂が震え、喜びが産声を上げた。
シドリウスは床に崩れ落ち、黄金の瞳から幾筋もの涙を流した。
「あの瞬間ほど強烈な幸せを感じたことはない」
ぽつりと呟いたシドリウスは、改めてフィリーネが運ばれてきた時のことを思い返す。
絹のように美しい白銀色の真っ直ぐな髪。固く閉じられた瞼の下には、長い睫毛が影を落としている。陶器のように滑らかな肌は触れると柔らかく、形の良い桃色の唇は可愛らしかった。
フィリーネのすべてがシドリウスを魅了する。
早くその瞳の色を確かめたい。その瞳に自分自身を映したい。
独占めいたものを感じていた矢先、シドリウスは聞いてしまった。