迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
『でん、か……どうして……』
シドリウスの幸せは一瞬で吹き飛び、奈落の底に突き落とされたような感覚に陥った。
これまで感じたことのない絶望感が心に押し寄せてくる。
やっと巡り会えたというのに、彼女には既に相手がいる。
殿下とはどこの誰だ?
幼く見えるがもう結婚しているのか?
その男をおまえは愛しているのか?
様々な疑問が頭の中を駆け抜けていく。
シドリウスは額に手を付け、長い溜息を漏らした。
身を引き裂かれるような痛みが走るが、優先すべきはフィリーネの幸せだ。
彼女がその男を愛し、幸せなのならそれを壊してまで自分の側には置いておきたくない。
後ろ髪を引かれながらも、シドリウスは身を引く決意をした――次の言葉を聞くまでは。
『おねが……やめて……』
掠れた声で懇願するフィリーネの長い睫毛の間からは、涙の珠がいくつも浮き出てくる。
居たたまれなくなったシドリウスは、咄嗟に手を握り締め、もう片方の手で頭を優しく撫でた。そして、魘されているフィリーネに優しく声を掛ける。
『ここにはあなたを傷つける者は誰もいない。私はあなたの味方だ』
力強く話しかけるシドリウス。しかし、フィリーネは眉間に皺を寄せたまま。
『……やっと見つけた私の花嫁。私の運命の番。もう決しておまえを離さない』
フィリーネの苦しみを取り除きたい一心で、シドリウスはありのままの気持ちをぶつける。すると、その言葉を聞いて安心したのか、フィリーネは再び規則正しい寝息を立て始めた。