迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
後から本人に教えてもらったが、彼女はこの国の王太子から婚約破棄された挙げ句、崖の上に自生しているマツの木の精霊のもとに嫁がされた。
マツの木には三百年ほど前に風の精霊が棲みついていたが、今は何も棲んでいない。それよりも気になるのは……。
「ご主人様、薬が依頼分より多くなっていますよ」
あれこれ考えていたところで話しかけてきたのはイシュカだった。
意識を引き戻し机の上を眺めてみたら、依頼分より多く薬を作ってしまっている。
苦い笑みを浮かべたシドリウスは、動いていた道具を魔法で止めて片付けていく。
「浮かれてますね」
肩を竦めて言うイシュカだが、その表情にはどこか安堵の色が滲んでいる。
「やっと番が見つかったからな。大目に見てくれ」
シドリウスは側にあった椅子に腰を下ろした。
「竜族ではないおまえに言っても仕方がないのかもしれないが、フィリーネという存在が愛おしくて堪らない」
フィリーネが側にいるだけでシドリウスは満ち足りた気持ちになる。これまでの生活が不幸だったわけじゃないが、心のどこかで常に空虚さが潜んでいた。
それはふとした時に現れ、シドリウスの心を蝕んできた。しかし運命の番が見つかった以上、もう苛まれることもない。