迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
第2話
「ふはははは。やっと自分の非を認めたか。何も言えないようだな」
フィリーネはふるふると首を横に振ってアーネストの言葉を否定した。
「いいえ殿下、私は何も悪いことをしていません。それに、まずは双方の話を聞いてから判断してください。ミリエラ様の話だけを信じるのは見解に偏りが生じます」
言っても無駄だと分かっていても、こちらの話を聞いて欲しい一心で諫めてみる。
しかしそれは、アーネストの逆鱗に触れてしまったらしい。
たちまち彼の額に青筋が浮き出る。
「年上の俺に口答えするとは偉くなったものだな。自分のことは棚に上げ、こちらを批判するなど傲慢にもほどがある。その性格の悪さではいくら侯爵令嬢とはいえ、誰もおまえと結婚したいだなんて思わないだろう。心の底から同情してやる!」
最後に憐れみの言葉を吐き捨てられ、フィリーネは閉口した。
すると、今まで静かにしていたミリエラが鈴を転がすような可愛らしい声を発する。
「殿下、すべてはフィリーネ様の機嫌を損ねた私が悪いのです。それと、誰とも結婚できないなんて言ったらダメですよ? フィリーネ様が可哀想じゃないですか」
「嗚呼、ミリエラ。虐められたというのにおまえはどこまでも優しいんだな!」
アーネストに褒められたミリエラはほんのりと顔を赤らめ、頬に手を当てる。それからフィリーネの方をちらりと見やった。
「殿下、私に良い考えがあります。それは大湖の……」
『大湖』という単語を聞いてフィリーネは面食らう。
大湖――それは王都から馬を三日ほど走らせたところにある、エリンジャー公爵が所有するガルシア領のテネブラエ湖のことだ。
国内最大級の湖で、尚かつ緑が美しい丘と谷に囲まれた自然豊かな場所だ。人気の景勝地ではあるが国の特別警戒区域にも指定されている。