迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる

第13話





 シドリウスのもとで暮らし始めてから一週間が過ぎた。
 小鳥のさえずりで自然と目を覚ましたフィリーネは微睡む意識の中、枕元にあるサイドテーブルに手を伸ばす。
「うーん、めがね、眼鏡……あっ」
 そうだ。もう眼鏡を掛ける必要はないのだ。
 長年染みついた習慣のせいで無意識のうちに眼鏡を探してしまった。
「まだ視力が回復して少ししか経っていないから。早く慣れないとね」

 起き上がったフィリーネはうーんと伸びをした後、ベッドを降りて窓辺に向かう。
 カーテンを開けて景色を眺めれば、遠くの山から顔を出した太陽の光が辺りを照らしている。空には雲が一つもなく、今日も良い天気になりそうだ。
 フィリーネは窓を開けて新鮮な空気を吸い込んだ。時折、風に乗って小庭に咲いているフジの花の香りが漂ってくるので心が癒やされる。

 ここに来てから、朝目覚めて一番に森の空気を吸うのが日課になっている。
 フィリーネは空を羽ばたく数羽の鳥を眺めながら、目を細めた。
「まだ暮らし始めたばかりなのに、侯爵邸にいた頃よりも落ち着くわ」

 生まれ育った侯爵邸は、どこにいても居心地が悪かった。
 アーネストとの婚約が決まってからは、アバロンド侯爵から完璧さを求められて息が詰まりそうにもなった。
 だが、シドリウスの屋敷では何をしようと自由で、厳しい眼差しを向ける者はいない。

 屋敷の周りを散策したり、居間の本棚で選んだ本を読んだりと好きに過ごしていいのだ。
 フィリーネは長年の柵から解放され、溜飲が下がるのを感じていた。
 思うままに行動していいのなら、今日は何をしよう。
 詩集を読もうか、歌でも歌おうか。考えるだけで心から楽しい。

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