迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 次にフィリーネの隣の席に座ると、フルーツボウルへ手を伸ばした。
「シドリウス様は朝食を食べられましたか?」
 この屋敷で暮らし始めてから、シドリウスと夕食以外を共にしたことは一度もない。
 仕事が忙しいらしく、日中は屋敷にほとんどいないのだ。とはいえ、フィリーネが食堂にいる頃合いを見計らって必ず会いに来てくれるので交流する機会はあった。

 シドリウスはフィリーネの質問に答える。
「もちろん、私は先に食べている」
 そう言いつつも、シドリウスの手はフルーツボウルへ向かったままだった。
 小腹でも空いているのだろうか。それなら家事精霊に何か頼んだ方が良いかもしれない、とフィリーネが考えていたところで、口元に何かが触れる。
 意識を引き戻すと、その何かはシドリウスによって押し当てられていた。
 咄嗟に離れて確認してみたら、それはイチゴだった。


「シドリウス様!?」
「私も今朝食べたがこのイチゴは美味しかった。おまえにも是非食べて欲しい」
「ですが……」

 シドリウスの手ずから食べさせてもらうなんて想像もしていなかった。
 フィリーネはどうしていいか分からず面食らってしまう。
(どうしよう。……とっても恥ずかしいわ)
 彼は純粋に世話を焼いてくれているだけだろうが、やはりこういった類いの行為には慣れそうにない。
 困り果ててとうとう涙目になっていたら、たちまちシドリウスの表情が強ばった。

「……っ、すまない。おまえにとっては、不快だったようだな」
 さっと手を引っ込めるシドリウス。その表情には悲痛な色が滲んでいる。
 フィリーネはその様子に心苦しくなった。

< 68 / 71 >

この作品をシェア

pagetop