迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる


 ミリエラの話を聞いたアーネストが目を剥いて口を挟む。
「まさか、フィリーネを大湖の暗黒竜の嫁にでもする気か?」
 アーネストの発言に周りはどよめいて、何人かが表情を強ばらせる。
 テネブラエ湖が国の特別警戒区域に指定されている理由は、湖底に暗黒竜が眠っているからである。オルクール王国が建国された七百年前のガルシア領一帯には、暗黒竜が暴れ回っていて、人々を苦しめていた。

 当時の国王がどれだけ兵を率いても討つことはできなかった。しかしそこに突然現れたのが人間に味方をする竜王だ。竜王は宝玉を使って暗黒竜を眠らせると湖底に沈めた。味方をしてくれた竜王は竜の国に帰り、湖の底には現在も暗黒竜が眠っているとされている。
 アーネストが言った暗黒竜の嫁とは、つまるところの生け贄だ。眠ってはいる暗黒竜が再び起きないよう乙女の魂を捧げて気を静めるのだ。

 呆然としていたフィリーネだったが、我に返って反論を始める。
「生け贄なんて冗談じゃありません! そもそも、三百年前に大湖の生け贄の儀は廃止されていて、現在では生け贄の儀を執り行った者は刑罰に処されることになっています」

 生け贄の儀を執り行えば、ただでは済まされない。
 ミリエラは知らないかもしれないが、王太子妃の教育の一環で法典を習っていたフィリーネは窃盗の罪から脱税の罪に至るまで、様々な法律を知っている。
 生け贄の儀は建前としては名誉ある死だが、死を強要するために三百年前に重罪になった。

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