迷信でマツの木と結婚させられた悲運令嬢、何故か竜王様の嫁になる
実を言うと、これまで王都以外の場所へ出かけた経験がなかったので、シドリウスの提案はフィリーネの心を躍らせた。
特に、エリンジャー公爵が運営しているガルシア領は非常に豊かな土地で住人たちも活気に溢れていると報告書で何度も読んでいたので、一度見て回りたいと思っていたのだ。
当然、フィリーネは一緒に町へ行く方に心が傾いていた。
「ご主人様、いろいろ情報収集したいので新聞を買ってもいいですか?」
イシュカの発言を聞いた途端、フィリーネの心は揺らいだ。
町へ行って自分を知る者――社交界新聞の記者がいたらどうしようという不安に襲われる。彼らに見つかってしまったら、すぐに取り囲まれて根掘り葉掘り質問され、満足するまで拘束されるに決まっている。
(もしそうなったら、二人に迷惑を掛けてしまうわ)
やはり自分は行かない方がいいと俯きがちになっていたら、シドリウスが口を開く。
「何を心配しているのか分からないが、町の人間は良い人ばかりだ。この私が保証する。それに今回はおまえも魔術師として行くから、フードをすっぽり被って足下まで覆われた外套も着る。容姿は見られない」
シドリウスの気遣いにフィリーネは愁眉を開いた。
これなら新聞記者もフィリーネだと分からないし、外套を脱がない限りは見つからないだろう。
「お心遣いに感謝します。では、私も一緒に行きます」
安心したフィリーネはシドリウスたちと一緒に町へ行くと決めた。