恋を忘れたアラフォー令嬢~遅咲き画家とのひとときの恋
その人は優しく微笑むと、そのまま帰って行った。
「あの人の絵、もっとしっかり見たかったなぁ・・・」
そう思いながら、私はしばらくそこに座って、絵を眺めていた。

それからも、仕事に追われる毎日。
「南都課長、承認お願いします」
「この契約書、確認していただけますか?」
「南都さん、今日の経営会議、部長が出張だから参加してくれる?」
仕事を終わらせても、何かと次々に舞い込んでくる。
たまに、忠が、
「南都課長、ちょっといい?」
と声を掛けてくる。
「仕事以外の話はしないから」
そう言うと、寂しそうに戻って行った。
ほんとに相手の子が、気の毒で仕方ない。

気持ちを切り替えるために、毎週土曜日になると、スケッチブックを持って、いつもの土手に出掛けた。
そして、先日声を掛けてくれた人が、相変わらず同じ風貌で絵を描いている。
その人は私を見つけると、頭を下げた。
私も頭を下げて、少し離れた場所に座った。
彼の絵、近くで見てみたい。
思い切って声を掛けてみようかな。
「あの、すみません」
「あっ、はい」
「絵を見せていただきたくて…後ろから見ていても、いいですか?」
「え、えぇ、こんな絵で良ければ、どうぞ」
私は、少し離れて後ろに座ると、その人は、また集中して絵を描き出した。
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